次世代のけん引役が見当たらない世界経済

中国経済の減速が言われて久しい。去年頃から中国の減速が鮮明になってきており、今年の6月以降に株バブルが弾けたことで、それはさらに顕著になった。しかし中国が伸びなくなると、今後の世界経済の「けん引役」になれる国がほとんどなくなってしまう。

減速する新興国経済

中国は政治的にはいろいろ言われている国だが、1990年頃から現在までの20年余り、経済的には世界経済の成長をけん引してきたのは間違いない。20年もの間平均10％近い高成長を続け、2010年からは日本を抜いて世界2位になっている。

急拡大した中国内に巨大な市場が生まれ、そこが日本や欧米の先進国の製品にとっての市場にもなっていた。また2008年のリーマンショックで世界経済が大恐慌の瀬戸際に追い詰められた時も、中国が大規模不動産投資などを行うことでいち早く回復し、中国が世界経済の回復の起爆剤になっていた感がある。

しかしその中国も、今となっては10％成長に戻ることはかなり厳しい。最近の四半期成長率は7％前後と発表されることが多いが、それはごまかしの数字で実態は3％程度とも、あるいはすでに0％にまで下がっているとも言われている。

一方現在先進国と言われている国々も、今後の経済の見通しは厳しい。日本は少子高齢化が急激に進行しており、人口が減っている以上高成長はほとんど望めない。また欧州はリーマンショック前までは順調だったが、その後ギリシャ問題など通貨統合の弊害が出てきている。成長率、インフレ、失業率などの経済指標は、ドイツなど好調な一部の国を除けば、リーマン前に回復しているとはとても言えない。

今でも順調な唯一の先進国はアメリカだ。アメリカは今でも合法・違法の移民が多く流入していることもあって、成長率も3％前後と高い。ただリーマンショック後には貧富の差が拡大しているなど、社会の矛盾は深化している。

また中国以外の新興国も、減速している国が多い。ロシアはウクライナを巡る欧米との対立や原油安で去年から急減速していて、IMFは2015年の成長率を－3％と予想している。またブラジルもここ1～2年は景気後退に陥っている。BRICsの中で多少好調なのは、インドだけだ。

BRICsに続く新興国として、2000年代頃からVISTAという言葉が使われてきた。VISTAとは、ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチンの5ヶ国で、BRICsを後から追いかける新興国と見られていた。

しかしその一方、2013年になってから、「フラジャイル5」などという言葉が生まれた。フラジャイルとは「脆弱な」という意味の英単語で、外国為替市場で通貨価値が下がりやすい5ヶ国を意味している。そしてその5ヶ国とは、インド、ブラジル、インドネシア、トルコ、南アフリカの5ヶ国だ。通貨が下がりやすいのは、経常赤字や高インフレなど、構造的な問題を抱えているためだ。そして間もなく行われる可能性の高いアメリカの利上げによって、通貨安が加速すると見られている。

フラジャイル5にはBRICsから2ヶ国、VISTAから3ヶ国が入っている。先ほど「多少好調」と言ったインドも、実はこのような脆弱性を抱えている。

このように先進国も新興国も、経済の現状と今後の展望はかなり厳しいのだ。アメリカだけがなんとか頑張っているが、アメリカが崩れた時、世界経済は危機的な状況に陥ってもおかしくない。なぜなら、けん引役となれる国がなくなってしまうからだ。