今週のG20では格差是正が議題に

2010年代とパンデミック中の長期的な金融緩和によって世界の株式市場は大きく上昇。それによって株式を持つ富裕層の資産はその間に膨れた一方、株価の恩恵のない貧困層は取り残されている。格差是正のため仏などが富裕層への国際課税を提唱し、今週開催のG20財務相会議で議論される。

世界一の富豪の資産は30兆円以上

　2010年代は大戦後の世界で稀に見る世界的な金融緩和の10年間だった。このような緩和政策のきっかけとなったのは2008年のリーマン・ショック。この経済ショックで世界の株価や不動産価格が暴落しデフレ長期化の懸念が出たため、アメリカはじめ各国は膨大な緩和でそれに対抗した。

　日本もアメリカにやや遅れて、2013年4月に前代未聞の金融政策としての異次元緩和を開始。この政策は他国より長く続き、2024年7月現在でまだ完全には終了していない。

　そして2020年にコロナウイルスのパンデミックが始まると景気が急激に後退するリスクが高まったことで、各国はそれまで以上の規模で緩和を開始。だが過剰な緩和が急激なインフレを引き起こしたため、2022年頃に日本以外の国は全て緩和を終了して利上げに移行した。

　約10年間大規模緩和を続けてきたことでこの間に世界の株価は大きく上昇し、特に2020年に始まった空前の緩和で急激に上昇した。

　株価が上昇したため株式を持つ富裕層の資産額が膨れ上がり、特に世界的な優良企業の株を大量に持つ創業者達の資産額が増えた。2000年代に世界一の資産家だったビル・ゲイツの当時の資産は日本円で6兆円程度だった。

　しかし2010年代以降の株高によって資産額が10兆円、あるいは1,000億ドルを超える超富裕層が1人また1人と誕生。そして最近世界一の金持ちになったテスラのイーロン・マスクCEOは、資産額が30兆円を超えたこともあった。

　その一方で株式を持たない貧困層には恩恵がなく、株価の上昇や他の要因によって引き起こされたインフレのため彼らの生活はますます苦しくなっている。つまり2010年代以降の金融緩和によって、世界の格差はそれまで以上に拡大した。

　格差がこれまで以上に開いたことで、世界では富裕層に追加で課税をしようという声が出ている。フランスの経済学者が先月、10億ドル（約1,560億円）以上の資産を持つ超富裕層に年間2％の資産税を国際的に課すべきだと提唱。この内容は今週ブラジルで開催されるG20財務相・中銀総裁会議で議論される。

　とはいえ現実的にこのような課税を行ってもどこまで実効性があるかはわからない。超富裕層は他国のビザも簡単に取れるので、課税のない国に逃げることもできる。アメリカのように国民には他国にいても課税する国もあるが、日本のようにそうでない国もある。

　現実的に考えて政策で現在の格差を是正するのは難しいが、また2008年のリーマン・ショックのような株価大暴落が起これば富裕層の資産が減ってある意味格差是正にはなる。しかしこのシナリオは同時に世界的な不況に突入するリスクがあり、実現を期待してはいけないものだ。長期的な緩和で広がった格差は結局、当面の間世界に残ることになるのではないか。