「億り人」について考える

2017年頃から投資で億単位の資産を築いた人のことを指す「億り人」という言葉が、メディアやネット上で見られるようになった。これは2008年に公開されたヒット映画『おくりびと』を少し変えて生まれた言葉だ。この言葉と言葉が表す人々について少し考えてみた。

仮想通貨で多くの億り人か!?

　2017年頃から投資で億単位の資産を築いた人が、メディアやネット上で「億り人」と呼ばれることが増えた。これは2008年に公開された『おくりびと』というヒット映画のタイトルを少し変えたもの。映画『おくりびと』は死者があの世へ旅立つ手助けをする納棺師という職業を描いたストーリーで、投資とは関係ない。

　そして億り人とはあくまで投資で億単位の資産を築いた人のことで、それ以外の方法で築いた人は指さない。例えば両親が資産家なら死亡した時に多額の資産を相続することになる。しかしそのような人々は億り人には含まれない。

　労働の収入を元にして1億円以上の資産を蓄えるには、医者や弁護士などの専門職でかなり成功する、大手企業の高い役職につく、起業して成功する、などの道がある。あるいは芸能人やスポーツ選手として一流になる方法もある。しかしこれらも億り人には含まれない。

　「億り人」が最初に広く取り上げられるようになったのは2017年頃だった。この時期は日本の株式市場が高騰し、日経225平均は日本新記録の16連騰も達成した。

　しかし株よりも最初のブームとなった仮想通貨の上昇は強烈で、ビットコインは前年末時点から最大で20倍以上になったし、他の仮想通貨も同様だった。ここで仮想通貨を安いうちに買っていたため資産が1億円を超える人が続出して「億り人」という言葉がメディアやネットによく出てくるようになった。

　その後2020年春以降はコロナバブルで株式市場が暴騰。さらに2021年になると仮想通貨市場も暴騰した。この時の仮想通貨高は2017～18年より激しく、ビットコインは2017年に230万円まで上昇したが、2021年には780万円と3倍以上になった。2021年には2017～18年より多くの億り人が生まれたことだろう。

　仮想通貨は安い時に買っておけば2017年や21年に10倍、20倍となったものも多いので、仮想通貨で億り人になった人は株やFXでなった人より多かったかもしれない。しかし現実はそう甘くない。

　利益を確定して円に戻さず仮想通貨のままで資産価値を計るなら、2017年や21年に資産が1億円を超えた人はかなりいたはずだ。しかし初回は2018年が明けると仮想通貨市場は暴落したし、2回目である2021年の天井後も22年にかけて暴落している。

　2022年6月現在多くの仮想通貨が21年のピークの3分の1や4分の1になった。つまりピーク時に1億円の価値を持っていた通貨も、すでに3,000万円程度まで価値が落ちている。

　そして仮想通貨の場合は税制も厳しい。仮想通貨は株やFXのように申告分離課税ではないため、利益確定すると所得税と住民税を合わせて最大55％の税金（＋少額の復興特別税）がかかる。つまり2021年に1億円の利益を確定していても、その半分ほどは税金で持っていかれる。

　さらに仮想通貨は他の通貨に交換した時点でも利益確定と見なされ課税される。ビットコインが4億円分になった時点で他の通貨に替え、2億円の課税が発生。だがその後替えた通貨が下落して、売っても2億円の税金が払えず膨大な課税額だけが残ったという悲劇もある。

　億り人はメディアで華やかに取り上げられるが、その後は持っている通貨の資産価値が下がったり、税金で困ったり、あるいは散財したりする人々もいる。全員が億り人になって人生が豊かになったというわけではないようだ。